さざ波 植木初夫の人・歌・家 (1981)
遺族 植木一郎の本書「あとがき」より
年月の経つのは早いもので、父「植木初夫」が他界して一年が過ぎ去り、すでに過去の人物として忘れ去られようとしている。
今思えば、生前の父の家庭での生活は、己の仕事のことについてはあまり語らず、私ども家族のものも、それが当りまえとして長く生活をともにしてきた。
とは言え、生涯を通し半生は社会教育(公民館)活動に打ち込み、自分なりに努力してきたことは、私どもに身をもつて感じさせる何かがあったことは否定できない。
また、一方では長年短歌を詠じ、歌を通して自己を表現し、気持ちを整理しあるいは翌日の活力の橿として、歌が生活の歯車の一枚として欠かせないものとなっていたことも思い出される。
「植木初夫」の死は、この広い雑多な世から眺めれば、一点にも及ばない取るに足らないものであるが、本人(故人)をとりまく周囲のものに対しては、近くは衝激 波として、遠く離れるに従い大波から小波果てはゆるやかな波へと、ちようど静かな池へ一石を投じた時波紋から生れた「さざ波」のように、小さく、短時間で はあるが、確実に、周囲に、ある感慨をあたえ、残したことと思う。
この「植木初夫」の残した「さざ波」を少しでも形にしようと、この度の一周忌を記念して「本人の短歌」を上梓し、本書を草した次第。この「さざ波」より故人をいくらかでも偲んで戴ければ幸です。
尚本書を綴るに当って、安部光五郎、平松茂男両売生をはじめ関係の方々には一方ならぬご尽力をいただき、深く謝意を表します。
また、版画家寺司勝次郎氏には終始御指導をいただき、ここに至ったことに対し感謝し、厚くお礼申し上げる次第であります。
昭和五十六年五月二十日