屋根の版画家 寺司勝次郎
  

寺司勝次郎の著書・関連書籍のご紹介

花も苦もある航空隊 十七才の青春(2002.7)

本書前口上より

 人の嫌がる軍隊に、志願して行く馬鹿も居る」こんな言葉が流行していた時代(と言っても民間人でなく、むしろ軍隊の中で)に地獄の軍隊にあえて飛込んでみました。

十六歳と言えば青二才だった筈なのに私自身はもう一人前の人間だと思い込んでおりましたから不思議な時代でした。
私、小さい頃から軍隊と言う男の世界に は一寸した魅力を感じておりました。大分県立大分中学校に進学して航空部つまりグライダーに乗る部に入部してプライマリー(初級グライダー)に乗ります と、次はセカンダリー(中級)だ、ソアラー(上級)だ。いやいや本物のプロペラ付きの飛行機に…。と上に、上にと目標を上空に向ける様になったのです。
机に向かって何かを学ぶより、外で体を動かす事が何より好きだった私ですから当然の成り行きだったのでしょう。
「若い時の苦労は買ってでもやれ」や「鉄は熱いうちに打て」をともに良く聞かされていた時代ですから次男坊鴉の私には当然の事でした。

 苦労をするのには二通りあると思います。
一つは自分自身で好きな苦労の世界に飛び込む事。絵描きや、役者などの類、世に言う極道の者の世界へ…と言う様な事です。
二つには強制的に強いられて、そこから抜けられずに成り行きで苦労の世界に仕方なく居る事。
私の場合は前者が主で後者はプラスアルファーだったので後悔する事はありませんでした。前者と後者は具合よく合体すると、これは幸いに「苦労の効果が倍増する」ものだと体験しました。

 私、現在七十四歳になって振り返って見ますと「嫌な事は年と共に忘れ、面白かった事だけを憶えている」からかも知れませんが航空隊に飛び込んで良かったと思う様になっています。だから今こそ老いに鞭打ってペンを取る事に致しました。
しかしいざペンを取って見ると「記憶にございません」や「だった様な気がする」ばかりで記憶は気前よく消えている事に今更ながら大変驚いています。

  五カ所の航空隊と一ケ所の入院先をそれぞれ人間修行の「鍛錬の道場」だったとの考えでまとめて見ました。各道場で次々と出逢う独特の鍛錬方法に新しい辛さと醍醐味を味わいましたが、切狂言は白衣の天使にか困れると言う予想外の幕切れ…。
いやいや「長口上は時間の妨げ」まだまだ嘴(くちばし)の黄色だった寺司勝次郎の十七歳の青春劇「花も苦もある航空隊」六幕、二年間の修業振りを!
隅から隅までズズズィーと(チョン!と拍子木)お目通し下さいます様、おん願い奉ります。

寺司勝次郎

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